PROFILEインタビュープロフィール
BIM 推進リーダー 小野寺 司 TSUKASA ONODERA
取締役 設計ブロックリーダー 安井 孝浩 TAKAHIRO YASUI
国内大手企業を含む5社による
設計施工コンペとしてスタート
プロジェクトの背景
1905年の創業以来、地域密着でまちづくりを行なってきた当社も、事業の集大成としてこれに挑みました。ライバルは、国内有数の大手建設会社を含む、全5社。企画書に費やせる時間は、わずか1ヶ月しかありません。「建物が成立するかどうかを考えるのは、仕事を獲ってからでいい」。まずは思いついた発想をもとに絵を描き、締め切り直前までそれを磨き上げていく日々。そうして挑んだプレゼンテーション、当社は競合他社と大きく差をつけ、無事このプロポーザルを勝ち抜くことができました。
大河ドラマ館は、ドラマ放送中の1年間限定で設置される仮設建築物です。そのため、今回は「大河ドラマ館等設計設置保守撤去業務」という形で、浜松市様より正式にご依頼をいただきました。
革新的なアイデア
プロポーザルの突破口
数ある審査項目の中で、今回最も重要な争点となったのは、「浜松らしさ」。大河ドラマ館が、ドラマのみならず浜松のまち全体の魅力を発信する拠点となり、浜松城公園など周辺スポットににぎわいを創造していくための革新的なアイデアが求められました。
今回のプロポーザルにおいて、当社が他社より優れていた点があるとすれば、それは、浜松らしさにこだわった「コンセプト設計」、そして、周辺ににぎわいをもたらすための「配置計画」だったと言えるでしょう。
まず当社は、浜松の地に根付く「やらまいか精神」に着想を得て、「イノベーション・サステナブル・うきうきワクワク」の三本柱をコンセプトに打ち立てました。
意匠設計では、このコンセプトをもとに、各所に浜松らしさを散りばめています。たとえば、大河ドラマ館の外観には、浜松が世界に誇る産業の一つ「ピアノ」をイメージした鏡面ブラックを採用しました。
イノベーション
浜松城天守閣の反り上がった瓦屋根に合わせ、大河ドラマ館の屋根にも大胆に勾配をつけたことで、周囲の景観との一体感や迫力を創出しました。建物と建物をつなぐアーケードやウッドデッキには、日本三大人工美林にも数えられる天竜美林の木材を使用。中でもアーケードは、東京2020オリンピック・パラリンピックで使用された天竜材を再利用しています。傾いた柱が複雑に入り組んだデザインのアーケードは、角度を少しずつずらすことで倒れないよう設計。近年、門型ではない少し不安定は形状でイノベーションを表現しています。
サステナブル
オリンピック材の再利用に見られるように、「サステナブル」は、今回のコンセプトを構成する重要なキーワードです。かねてより当社では、「普段着の ZEB」と称し、一般的な技術で高い省エネ性能を実現した ZEB 建築の普及に取り組んできました。2023年度グッドデザイン賞も受賞したこの取り組みが、大河ドラマ館にも採用されています。
うきうきワクワク
また、コンセプトの第3の柱「うきうきワクワク」を最もよく表しているのが、大河ドラマ館の手前に広がる芝生の広場。浜松城天守閣から見下ろすと葵の御紋の形状をしているため、「葵広場」と名付けられたこの広場は、イベントなども頻繁に開催され、地元の方や観光で訪れた方の憩いの場として親しまれています。実はこの葵広場、構想の段階では、単なる三等分された円の形をしていました。しかし、企画書の締め切りが迫るある日、担当者の一人が「葵の御紋にするのはどうだろう」とひらめき、現在の葵広場が誕生したという秘話があります。
コンセプトに並んで、今回の勝因として挙げられるのが、建物の配置計画です。建物を建設できる範囲が、以前あった小学校の建物跡に限られていたため、来館客に、施設全体、さらには周辺スポットまで足を伸ばしていただくためには、工夫が必要でした。そこで、浜松城天守閣や、堀跡、石垣、二の丸裏門、二の丸御殿など、ドラマの舞台となる場所をつなぐような形をイメージして建物を配置。大河ドラマ館、チケット売り場、ショップなどの各建物をつなぐ動線も、関係者が出入りする際の利便性に配慮しながら、上述のようにアーケードを設置するなど、自然と回遊したくなる工夫を施しました。
私たちに待ち受けていた課題
時間との闘い
プロポーザルを無事に突破した私たちが、次に戦わなければならなかった相手、それは「時間」でした。翌2022年のオープンまでに残された猶予は、約11ヶ月。目の前にあるのは、まだ測量もされていない状態のまっさらな敷地と、プレゼンに向け勢いで描き上げた構想図。担当者は、「工事期間から逆算すると設計期間は2か月間、後半の1か月は構造や設備設計期間となるため、12月の1か月で意匠設計を固める必要がありました。」と当時を振り返ります。
時間の問題に加え、このプロジェクトをさらに困難にしていたのが、計画敷地内に埋蔵文化財があるという事実です。大河ドラマ館や葵広場がつくられる場所には、かつて二の丸御殿がありました。重要な文化財にあたるため、造成には数々の制約が伴います。平らな土地で水捌けがよくないため、盛り土を施す必要がありましたが、それすらも一苦労。1年で撤去できるよう、まず敷地全体にシートを張り巡らせ、その上から新たに地面を築かなければならなかったのです。そのほかにも、地面を掘る際の深さの規定など、文化財ならではの細かな制約が、迫る時間の上にのしかかりました。
私たちが、こうした厳しい状況にも関わらず無事に大河ドラマ館を完成させることができた背景には、関係業者の皆さんのご協力があります。関係業者の皆さんにとって、今回の私たちからの要求は、時間的にも資金的にも、決して条件のいいものとは言えませんでした。中には、本来であればスケジュールに空きがないという企業さんもいらっしゃったでしょう。それにもかかわらず、皆様に快諾いただけたのは、プロジェクトが魅力的だったからと思います。
今回は、手がける建物が複数棟にわたっていたため、1棟ごとに意匠設計、構造設計など各分野のプロフェッショナルを配置。社内外のメンバーがそれぞれに培ってきた知識、経験を集結させ、最大馬力で駆け抜けた結果、翌年の冬、無事に大河ドラマ館はプレオープンを迎えられました。
新しい挑戦が成功した証
プロジェクトの総括
これまで当社では、「普段着のZEB」やコンペへの参加、BIMを中心としたDX化など、たくさんの「新しいこと」に挑戦してきました。今回の大河ドラマ館は、その集大成であり、また、公共的建築を設計施工で手掛けるという新たな挑戦でもありました。2023年11月25日には大河ドラマ館の来場者数は目標の50万人に達し、さらに増やしています。1年間限定の仮設であるということに対し、多くの方から「残してほしい」という声が届いています。それは、私たちの新しい挑戦が成功したことを示す、何よりの証と言えるでしょう。
また、今回のプロポーザルの勝利は、社外だけでなく、社内にも大きな影響をもたらしました。このようなシンボリックな建設物を設計から手がけたことで、社内の誰もが、自社の設計力に一定の自負を抱くようになったのです。施工だけではない、デザインビルドにも十分対応可能な企業であるという認識が社内で浸透したことは、今後、須山建設を新たなステージへと導いてくれると信じています。
PROJECT ABOUTプロジェクトの概要
場所 | 静岡県浜松市 |
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発注者 | 浜松市(業務委託) |
設計 | 須山建設株式会社一級建築士事務所 |
用途 | 展示施設 |
規模 | 鉄骨造平屋建 延床面積1,563.98m2 |
竣工 | 2022年10月 |
PROJECT MEMBERプロジェクトメンバー
設計課長
BIM推進リーダー
小野寺 司TSUKASA ONODERA
電気設備担当
チーフ
植田 和孝KAZUTAKA UEDA
機械設備担当
チーフ
辻村 吉彦YOSHIHIKO TSUJIMURA
管理建築士 取締役
設計ブロックリーダー
安井 孝浩TAKAHIRO YASUI