PROFILEインタビュープロフィール
持続可能な未来への拠点
「光 熱 風」の技術を軸に、農産物関連機器、業務用熱桟器などの開発・製造を行う静岡製機様。
リサイクル資源を用いた製品開発や働きやすい環境づくりなど、持続可能な社会実現に向けた活動にも先進的な姿勢で取り組んでいらっしゃいます。そんな同社のランドマークとなる新本社の設計施工を、私たち須山建設で手がけさせていただきました。
お客様の言葉の真意を見極める
コンペとして始まった本プロジェクトにおいて、お施主様が望まれたのは「本社にふさわしい建物」であること。競合他社の提案には、デザイン事務所とタッグを組むなどして、視覚的な美しさを追求したものが多く見られました。しかし、私たちも同様にデザインを重視しすぎると、須山建設本来の強みである省エネや構造などの技術に十分なコストを費やすことができません。
本社にふさわしい建物とは、一体何か?
静岡製機様の日頃の取り組みや現在の状況などを踏まえた上で、その言葉が持つ本当の意味をじっくりと咀嚼していった結果、須山建設では、外観デザインではなく、もっと本質的な価値の提案によって勝負に出ることにしました。すなわち、免振構造の採用とZEB認証の取得です。免振+ZEBの建造物は、建設コストがかかることから全国的にも事例が少なく、今回も予算内で二つを実現するのは一般的には困難とされていました。しかし、もし実現できれば、それは競合他社との大きな差別化になります。デザインや設計は、難しいことをせず基本に忠実に。また、弊社で実践してきた「普段着のZEB」の手法を採用することで、予算内におさまるよう工夫を重ねました。
静岡製機様は、SDGsへの取り組みなどを通して、社会の進歩に貢献することを企業理念として掲げていらっしゃいます。そんな静岡製機様にとって、免振とZEBを組み合わせた革新的な本社は、企業としての付加価値をきっと高めてくれることでしょう。
免振+ZEBに加えて提案の中核をなすのは、静岡製機様が長年育まれてこられた「光 風 熱」の三要素を、本社屋に具現化すること。正門正面のファサードには、カーテンウォールを採用し、建物内部へ最大限の「光」を取り入れる構造としました。さらに、全ての居室で開放された窓を採用することで、自然の「風」が屋内を行き交う設計に。加えて、建物全体の「断熱性」を高水準に維持し、快適な室内環境と併せて高い省エネ性能を実現しています。
こうした性能重視の提案が功を奏し、お施主様から今回の設計施工をご指名いただくことができました。提案書を作成する際には、須山建設が有する技術や、実際の施工工程について事細かに説明を記したことで、パートナーとしての信頼を感じていただけたことも、勝因のひとつであったと自負しています。
いつでもなんでも言える存在
実際の基本計画段階に入ってからは、20回を超える平面提案を重ね、お施主様の要望を細かく汲み取るよう努めました。基本計画の段階で設計を詰め込みすぎてしまうと、かえってお施主様側が要望を言いにくくなってしまう恐れがあります。そのため、お施主様から連絡があれば1~2時間程度ですぐに対応し、要望の有無を確認するなど、適切なスピード感でコミュニケーションを重ね、何でも言いやすい雰囲気作りに務めました。また、免振+ZEBを予算内で確実に実現できるよう、補助金申請手続きも並行。須山建設では過去にも多くの補助金採択実績があるため、そのノウハウを生かして今回も無事受給することができました。
光 風 熱、そして緑を感じる新社屋の誕生
こうして完成した静岡製機様の新本社は、なだらかな斜面に建つシャープな3階建て。敷地の高低差を生かし、地を作り込みすぎずにメリハリのある外観デザインに仕上げています。花壇や縁石には御影石を用い、重厚感を演出。ガラス張りのエントランスロビーからは、足元に植栽の緑と開放的な景色が望め、「光 風 熱」に加え「緑」も感じられる心地よい空間が実現しました。
性能面では、大地震に備え、建物の損傷を最小限に抑える免振構造を採用。設計グループでは3件目の免振建物設計でしたが、施工部門には豊富な実績があったため、現場担当者に施工の苦労話を聞き、改善を重ねながら設計を進めました。さらに非常用発電機や受水槽給水設備も導入し、災害時の電力と給水の確保も図っています。
こちらは須山建設社内にある構造ですが、このような構造となっています。
太陽光発電設備による創エネと「普段着のZEB」仕様を採用し、ZEBの要件もしっかりと満たすことができました。太陽光パネルを地面にも設置したことにより、一次エネルギー消費削減率は141%に達しています。1階床下は断熱を厚くして、床の冷えを感じさせない設計に。地下の免振ピットの涼しい空気を廊下に給気することで、快適な室内環境を実現しました。
プロジェクトの総括
世間では災害対策や省エネ対策の重要性がますます唱えられる一方で、免振構造やZEBなどの先進技術を採用した建物は、コストが理由でなかなか浸透していません。そんな中、今回のプロジェクトでは、限られた予算内で免振構造とZEBの二つを同時に実現したことで、静岡製機様のご要望通り、本社にふさわしい建物をご提供することができました。
「光 風 熱」を感じられる社屋は、年中心地がよいとお施主様からも高い評価をいただいています。また、「人が集まれる場所」をコンセプトに設計した食堂スペースでは、社内外の方々が会合やOB会など、憩いの場として活用されているとのことです。
コンペでは、自分たちも競合他社も、与えられる時間は同じです。短い時間の中で、どれだけお施主様のことを考え、丁寧にご提案できるかが勝敗を分けるポイントになります。本社にふさわしい建物とは、必ずしもデザイン性だけを意味するものではありません。お施主様の立場に立ち、本当にお施主様にふさわしい建物とは何かを根本から熟考してきた成果が、今回実を結ぶことができたことを、弊社一同大変嬉しく感じています。
PROJECT ABOUTプロジェクトの概要
場所 | 静岡県袋井市諸井 |
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発注者 | 静岡製機株式会社 |
設計 | 須山建設株式会社一級建築士事務所 |
用途 | 事務所 |
規模 | 鉄骨造3階建免震構造 |
竣工 | 2021年2月 |
PROJECT MEMBERプロジェクトメンバー
設計部長
中野 栄太EITA NAKANO
電気設備担当
チームリーダー
植田 和孝KAZUTAKA UEDA
機械設備担当
チーフ
辻村 吉彦YOSHIHIKO TSUJIMURA